ハルさんのこと
「ハル」ということばは 春だから好き ということもあるけれど なぜか昔から 強くひかれていた。 それはもしかしたら、 こういうことではないかという 思いあたることが見つかった。 母方の祖父も祖母も 私が生まれた頃には、
もう亡くなっていた。 祖母は、母が小さい頃に。 祖父は男一人で、
母たち三人姉妹を立派に育てた。 お料理はもちろん、お菓子も作る人で
お裁縫もでき、女親がいないことで いじめられてはいけない、と言って
がんばったらしい。 私が小さい頃から 祖父がまめな人であったことは 母の自慢で、よく聞かされていた。 けれど祖母は、母が小さい頃に
亡くなっていて、記憶に薄いのか、 美容師さんであったことくらいしか
知らなかった。 今、年老いて母は、
祖父母が並んで写っている写真を
部屋にかざり、毎日
手を合わせる。 「よくないことが起きるのは 両親を粗末にしていたからかも」と ぶつぶつ言いながら。 昔、聞いたのに忘れていたので、母に 「おばあちゃんの名前って なんていう名前だったっけ?」 と、私が聞くと、 「春枝さんよ」と答えた。 そう !! ハル !! これだ !! 私が、ハルという言葉に、
強く反応するのは、生まれる前の
お腹の中か、もしかして、
まだ母の体の一部だった時に 何度も繰り返して聞いた 名前だったからなのかもしれない。 そうにちがいない。 それ以上に、理由が見つからないもの。 春枝おばあちゃんって どんな人だったのかな。 私も母と同じように、写真の前で 「春枝さん、お父さんとお母さんを
守ってください」と、お願いをした。 それから、私が寝る前の
お祈りにも名前を呼び 私に、お願いをされる春枝さん。 いつもありがとう ハルエさん。 あなたの名前の「ハル」が、
今年も無事にやってきました。 1年で一番素敵な季節の名前を つけてもらった、私のおばあちゃん。 名前を呼ぶだけで、なんだかとても しあわせな気持ちです。