大手町三丁目物語
父方の祖父母が、 広大生の下宿屋さんをしていました。 なので、子供の頃、私の家は 家族ではない10人ぐらいの人たちが うろちょろとしておりました。 そして、家族ではない人の夕食を たくさん作っている祖母の姿を かっこいいって思っていました。 二人とも校長先生だった祖父母が なぜ下宿屋さんを始めたのか、 生きているうちに聞いておけば よかったのですが、 父も知らないようで残念です。 だから、家の食卓テーブルは とっても長くて広くて イスがたくさんありました。 小さな部屋も10部屋以上。 「ただいま帰りました」
「おかえりなさい」と、言っては、 家族ではないお兄さんがイスに座り 次々とおばあちゃんのごはんを うまい、うまいと言って食べ 「ごちそうさま」と部屋へかえる。 そんな一般的には珍しい夕食の光景が 目に焼きついていたせいか、 私はいつの間にかそんなおばあちゃんが あこがれになっていったのでしょう。 私はおばあちゃんの後をついて ちょこまか ちょこまかの質問少女。 「これはなんにつかうの?」 「いまからなにつくるの?」 「おばあちゃんの手、どうして びょーんて皮がのびるの?」 「なんできゅうりをバケツに
いれるの?」 なにからなにまで。 おかげで小学生のうちに 白和えの作り方や、おからの煮ものを 教わって作れるようになりました。 長い年月を経て 私はとうとうたくさんの 知らない人のお料理を 作るお仕事につきました。 先日、遠い所から 懐かしい知人が mon*chouchou に 行きたいと言ってくれて 8年ぶりに実現しました。 うまい、うまい、とその人が言うので 私はおばあちゃんの下宿屋さんの 大学生を思い出しました。 おばあちゃんは澄ました顔して 聞こえないふりしていたけど そんな彼らのつぶやきが うれしかったに違いない。 だって、私もすごくうれしかったから。 家族に喜んでもらえることも うれしいけれど 家族じゃない人にも 喜んでもらう幸せを、 おばあちゃんに教わりました。